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生物学研究に新たな光-超解像蛍光イメージングに最適な超耐光性蛍光色素を開発- 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【概要】

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の山口 茂弘(やまぐち しげひろ) 教授、深澤 愛子(ふかざわ あいこ)准教授、多喜 正泰(たき まさやす)准教授、WANG Chenguang

(わん ちぇんがん)研究員、佐藤 良勝(さとう よしかつ)講師、東山 哲也(ひがしやま てつや) 教授らの研究チームは、生命現象などを可視化する超解像蛍光イメージングに最適な新しい蛍光色 素を開発しました。

生体内の分子の動きを視るバイオイメージングは、現在の生物学研究に欠かせない研究手法の一 つです。バイオイメージング技術の発展に大きく影響を及ぼしたのは、2014年のノーベル化学賞に 選ばれた超解像顕微鏡の一つであるSTED顕微鏡です。STED顕微鏡は、従来の蛍光顕微鏡の限界 を大きく上回る高い空間分解能によって、これまで識別が難しかった細胞内にある小器官の構造や タンパク質の動きなどの観察を可能にしました。しかし、強いレーザー光の照射を必要とすること から、タンパク質などに結合した蛍光色素の褪色が激しく、生きた細胞を視るライブイメージング などの実践的なバイオイメージングへの応用が阻まれてきました。

ITbMの研究チームは、新たな蛍光色素分子「C-Naphox」を開発し、この色素が従来の蛍光色素 をはるかに上回る耐光性をもつことを明らかにしました。今回の発明により、従来の色素では困難 であったSTED顕微鏡による繰り返し観測にも成功し、STED顕微鏡を実用レベルに押し上げるた めの基盤技術を確立しました。

本研究成果は、ドイツ化学専門誌「アンゲバンテ・ヘミー国際版」のオンライン版に1023日に 公開されました。

生物学研究に新たな光

〜超解像蛍光イメージングに最適な超耐光性蛍光色素を開発〜

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の山口 茂弘(やまぐち

しげひろ)教授、深澤 愛子(ふかざわ あいこ)准教授、多喜 正泰(たき まさやす)

准教授、 WANG Chenguang (わん ちぇんがん)研究員、佐藤 良勝(さとう よしかつ)講

師、東山 哲也(ひがしやま てつや)教授らの研究チームは、生命現象などを可視化す

る超解像蛍光イメージングに最適な新しい蛍光色素分子「C-Naphox」を開発し、この色

素が従来の蛍光色素をはるかに上回る耐光性をもつことを明らかにしました。

今回の研究により、従来の色素では困難であった超解像顕微鏡(STED 顕微鏡)によ

る繰り返し観測にも成功し、 STED顕微鏡を実用レベルに押し上げるための基盤技術を確

立しました。

本研究成果は、10月23日にドイツ化学専門誌「アンゲバンテ・ヘミー国際版」のオン

ライン版で公開されました。

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【研究の背景と内容】

生体組織や生命現象を可視化するバイオイメージングは、現在の生命科学研究を支える基盤技術 として急速に発展してきました。中でも、蛍光イメージングは、目的の物質が存在する場所や動き を蛍光として感度よく検出できるため、観察対象を生きたまま観察することができます。そのため ライブイメージングの最も有力な手法として広く用いられています。

ところが、この蛍光イメージングには致命的な欠点が存在します。光を検出手段として用いる蛍 光顕微鏡では、光の回折によって像がぼやけ、隣接した二つの物質が一つに視えてしまうため、顕 微鏡で正確に観測できる対象物の大きさの下限(空間分解能)に制約が生じてしまいます。物理学 者エルンスト・アッベが19 世紀に提唱した「アッベの式」によると、観測可能な像の大きさは光 の波長の2分の1までであり、400700 nm (nmは、1 m10億分の1) の波長をもつ可視光を 用いた場合には、200nmが理論上の限界ということになります。これに対して、細胞内小器官やウ イルス、DNA、タンパク質など、生命科学者が興味を持つ生体組織や分子の多くは200nm以下の 大きさであり、蛍光イメージングでは鮮明に観察することは困難でした。微細な生体組織や生物活 性分子の動きをありのままで観察する方法の開発は、生物学研究の手法に革新をもたらす重要課題 であり、多くの研究者が渇望していました。

そんな中、今からおよそ10年前、この「200nmの壁」を超えることのできる新たな蛍光顕微鏡、 超解像蛍光顕微鏡が発明されました。1994年にStephan E. Hell博士(ドイツ・マックスプランク

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研究所) らによって開発された誘導放出抑制 (stimulated emission depletion; STED) 顕微鏡はそ の一つです。STED顕微鏡では、蛍光色素を結合(ラベル化)した対象物に、光(励起光)とそれ をドーナツ状に取り囲んだ STED 光の 2 種類のレーザーを照射します。蛍光色素に励起光を照ら すと、エネルギー状態の高い励起状態になり、蛍光を発しながら、徐々にエネルギーの低い基底状 態に戻ります。さらに蛍光色素の蛍光極大波長よりも長波長の STED 光を周りに当てることによ り、その部分の蛍光色素のみに誘導放出現象を引き起こし、強制的にSTED光と同じ波長でのみ発 光させます。この波長の光のみをフィルターで取り除くことで、STED光の当たらない中心部のみ の蛍光を高感度に検出することができるようになるため、数十nm程度にまで空間分解能を高める ことができます。この発明を皮切りに、従来の蛍光顕微鏡では像がぼやけて見ることができなかっ た細胞内小器官を鮮明に観察できることが次々と示されました。バイオイメージングに大きな発展 をもたらす画期的な技術であり、2014年のノーベル化学賞は、Hell博士を含め、超解像顕微鏡を 発明した3名の研究者に贈られました。

しかし、これらの超解像顕微鏡を汎用的な手法として実用的に用いるためには、依然として大き な壁が存在しました。その最も大きな壁が、蛍光色素の耐光性です。超解像蛍光顕微鏡では、通常 の蛍光顕微鏡と比べて格段に強いレーザー光の照射を必要とすることから、蛍光色素の褪色が深刻 な問題となっています。例えば、STEDイメージングにおいて、空間分解能はSTED光の強度が大 きくなるほど高くなることが明らかにされていますが、STED光を強くすることで、同時に蛍光色 素の褪色も促進されてしまいます。現在の耐光性蛍光色素の代表格である Alexa Fluor® 488 ATTO 488といった色素ですら、STEDイメージングに用いた際の光褪色は深刻であり、繰り返し 測定を行うことが困難であるのが現状でした。これでは、STED顕微鏡の強みである高い空間分解 能を生かしたままライブイメージングを行うことができません。すなわち、超解像顕微鏡技術の本 来の有用性を十分に発揮するためには、強力なレーザー光の照射にも耐えうる新たな蛍光色素の開 発が必要不可欠でした。

図1. C-Naphox蛍光色素とSTED顕微鏡によるイメージング画像

これに対して今回、研究グループは、従来の炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)原子を中心とする 分子骨格に、ホウ素(B)、リン(P)、ケイ素(Si)、硫黄(S)などの通常ではあまり用いられない 元素を組み込むという分子デザインをもとに、新たな蛍光色素の開発に取り組んできました。その 中で、15 族元素であるリン (P) を含む有機蛍光分子の構造と蛍光特性の相関について調べる過程

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において、リンと炭素原子で橋かけした構造をもつ C-Naphox が極めて高い耐光性をもつことを 発見しました。

C-Naphox は、現在最も耐光性に優れた蛍光色素として知られる Alexa Fluor® 488 ATTO 488 と比較しても圧倒的に高い耐光性を示します。例えば、強力なキセノンランプ(300 W)を用い て460 ± 11nmの光を照射する実験を行ったところ、2時間の光照射によってAlexa Fluor® 488 と ATTO488 がそれぞれ初期濃度の 26.2%および 96.7%まで分解したのに対し、C-Naphox は 99.9% が分解することなく残っていました。同条件で12時間照射を行ったところ、ATTO 488が 58.7%まで分解したのに対し、C-Naphoxは初期濃度の99.5%と、ほぼ定量的に生き残っているこ とが分かりました。

そこで、研究チームは、C-Naphoxを用いて生きた細胞を染色し、STED 顕微鏡を用いた蛍光イ メージングへの応用を試みました。その結果、極めて強いSTED光の照射下で50回繰り返し観察 を行っても、 83% の初期蛍光強度を保持できることがわかりました。同条件でAlexa 488を用い た場合には、数回の繰り返し測定でほぼ完全に褪色してしまうことと対照的な結果です。すなわち、 C-Naphoxの例外的に高い耐光性により、従来不可能であると考えられてきた繰り返しSTEDイメ ージングが初めて実現したのです。

【まとめと今後の展望】

リンを鍵とする分子設計により超耐光性蛍光色素C-Naphoxの開発に成功し、この色素が生細胞 の繰り返し STED イメージングにおいてもほとんど褪色しないことを明らかにしました。この超 耐光性蛍光色素の登場により、長時間の繰り返し測定を伴うタイムラプスSTEDイメージングや、 ライブ STED イメージングといった、従来の蛍光色素では不可能であった超解像蛍光イメージン グが実現できると考えられます。今回開発した蛍光色素を近年発展のめざましい超解像顕微鏡技術 と組み合わせることで、数々の生命現象を高精細にイメージングできる手法の開発につながるもの と期待されます。

本研究成果の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST

「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」研究領域(入江 正浩 研究総 括)における研究課題「ソフト π マテリアルの創製と機能発現」(研究代表者:山口茂弘)の一環 として行われました。

【用語解説】

蛍光イメージング:目的の物質(タンパク質など)に蛍光色素を結合し、そこから出る蛍光を観察 する手法。

誘導放出 (stimulated emission)励起状態の原子または分子が低いエネルギー状態 (基底状態) に 移る過程の一種であり、入射光と同じ波長および位相をもった光のみを放出しながら基底状態に移 る現象。入射光がなくても、原子や分子が光や熱の放出を伴い基底状態に移る過程(自然放出)も 存在するが、誘導放出の起こりやすさは入射光の強度に比例するため、非常に強い入射光を当てる ことで自然放出が無視できるほどの割合で誘導放出を引き起こすことができる。

超解像蛍光顕微鏡:蛍光顕微鏡の理論限界(「200 nm」の壁)を超える高い空間分解能をもつ蛍光 顕微鏡の総称。誘導放出抑制 (STED; stimulated emission depletion) 顕微鏡の他に、単一の蛍光

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分子の明滅現象を利用した光活性化局在顕微鏡 (PALM; Photoactivated localization microscopy または STORM; stochastic optical reconstruction microscopy) がある。前者を開発したStephan W. Hell博士、後者の開発の立役者となったWilliam E. Moerner博士およびErig Betzig博士の3名 に、2014年ノーベル化学賞が授与された。

光の回折:回折とは、波の進行方向に対して壁(障害物)が存在する場合、波が壁の背後など、一 見すると到達できない領域に回りこむ現象をさす。光は電磁波の一種であり、波の性質と粒子の性 質をあわせもつため、

物質に光を当てると、回折が起こることで光が進行方向に対して拡がる。回折による光の拡がり(回 折角)は光の波長に依存し、波長が長くなるほど大きくなる。

【掲載雑誌、論文名、著者】

掲載雑誌: Angewandte Chemie International Edition

論文名: A Phosphole Oxide Based Fluorescent Dye with Exceptional Resistance to Photobleaching: A Practical Tool for Continuous Imaging in STED Microscopy

(例外的な耐光性をもつ蛍光色素:STED 顕微鏡による連続イメージングのための実 用的なツール C-Naphox

著 者: Chenguang Wang, Aiko Fukazawa, Masayasu Taki, Yoshikatsu Sato, Tetsuya Higashiyama, Shigehiro Yamaguchi

(Chenguang Wang, 深澤愛子、多喜正泰、佐藤良勝、東山哲也、山口茂弘) 論文公開日:20151023

DOI: 10.1002/anie.201507939(http://dx.doi.org/10.1002/anie.201507939)

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